落ち着いた和の雰囲気と、広々とした部屋の様子に魅かれて、「私たちも一緒に泊まっていい?」・・・そう電話で伝えたら、「それは嬉しいねえ。でも久しぶりの旅行なんだから、ちょっとくらい、ふたりきりにさせてくれ」、ですって。迎えに行ったほうがいいかしら・・・?と思っていたけれど、東京駅八重洲北口の目の前、歩いて3分の場所にあるホテルだから、迷うことも、疲れることもないはず。それなら私たちは、のんびりと夕方から合流しよう。
家族5人揃っての、東京旅行の当日。お昼過ぎに「今、皇居の中を散歩している」と、お父さんから連絡が入った。14時のチェックインを前にホテルのフロントへ荷物を預けて、さっそく近くの観光スポットを周るという。
私たちも「都会の旅館」を目指して、1日の終わりが近づくころ東京駅へと向かった。見慣れた街の喧騒をくぐり抜け、お香がたちこめた心地よいエレベーターに運ばれて、ホテルの最上階へ。歴史を感じる黒い看板と開放感あるフロントを前に、本当に旅行に来た気分になる。
ひと足早くチェックインしていたお父さんたちと合流すると、美紀がふたりのもとに駆けていって、数カ月ぶりの再会を喜んでいる。そのまま少し早い夕食へと、みんなで<レストラン花ごよみ>に向かった。掘り炬燵のあるお座敷席を予約して、一家団欒で会席料理をいただくことになっている。東京の夜景を臨めるテーブル席も魅力的だったけれど、6歳の子供がいると、個室の方が落ち着いて料理を楽しめる。
旅館時代から100年の歴史を重ねた老舗の料理は、一皿一皿、味だけでなく、器にまでこだわりが感じられた。「これ、きれいねー!」ガラスの器に、美紀が目をキラキラさせている。その横で大人たちは、お互いの近況から、明日に予定している<はとバス>ツアーのことまで、話に花を咲かせる。目に舌に、そして心が満たされていった。
部屋に戻ってからも、私は大好きな<小川珈琲>、みんなは<GARASHA>の緑茶や、冷蔵庫にあるビール、オレンジジュースと、思い思いのドリンクを片手に、おしゃべりが続く。明日の<はとバス>ツアーは、午前中に出発する。いつもなら、「早く寝なさい」と美紀に注意をするところだけど、ホテルからバス乗り場までは歩いて数分。今夜は少しくらい、夜更かしさせてあげてもいいかしら? そう思い始めたころ、和室にあるウッドデッキに出てはしゃいでいた美紀が、「おじいちゃんとおばあちゃんといっしょに、おフトンでねるーっ!」って言い出した。畳の部屋に、福島の家を思い出したのね。
どうやら今夜は、パパとママはお役御免のよう。和室の襖を締め切ると、私と真一さんがいるベッドルームに、静寂が訪れた。私たちは、もう少しこのままで、今度は夫婦の時間を楽しむとしましょう。賑やかで幸せな明日が、また訪れるまで。